当たり前は当たり前じゃない

人生、天命、生と死


元上司の方が亡くなった。と連絡があった。
いまの僕を育ててくれた方。

72歳だった。

まだ若いよ。早いよ。


彼は僕と出会う数年前に両親、奥さんの両親の介護と仕事の両立による過度なストレスから、アルコールに開放を求めて依存症になってしまった。
僕はこの人の後釜として採用された。


面接後に、すし屋へ連れていかれ「酒は飲むのか?」と聞かれた。


あまりお酒が得意ではなかったけど、ちょうどこの時、子育て中の妻が飲みに行けないので夫婦で居酒屋気分を味わうために、週末にカクテルを作っていたんです。そのためカクテルに関する本を何冊か買ったほどに割とガチで。


「嗜む程度に飲みますよ」と答えた僕に
「どんな酒が好きなんだ?」と返ってきた。

「ん~最近はラム酒を飲みますね。ラムコークとかモヒートとか」
そう答えると、彼の機嫌がみるみる良くなって、胸の内ポケットから1本のシナモンを取り出した。


そして彼はこう言った。
「なかなか見込みがある。ここのすし屋には洋酒を置いていてラムのボトルをキープしてある」
「このシナモンを何に使うか知っているか?ラムハイボールを作ってコレ(シナモン)でステアするんだ」

胸の内ポケからシナモンを取り出す人は初めての経験だったので、どうリアクションしていいかわからない僕に彼はつづけた。

「ラムはどんなのを飲むんだ?」

僕は「まだ詳しくないんですが、マイヤーズとバカルディを。マイヤーズはラムレーズンにも使えますし」と答えた。

そして彼から唐突に「採用!」と言われた。

こんなことがあるのか。と、正直驚いた。

その後は結構打ち解けていろんなお酒の話しを聞かせてもらった。
初対面で面接した後の食事会の話。
そもそも面接後に食事会だなんて、そんなんある!?て衝撃だったんですけどね。

僕が業務を引き継いで彼は退職した。
でもことあるごとに、行きつけのすし屋に行こう!と誘ってくれて、一緒に飲んだ。

アルコール依存症だから、本当は付き合っちゃいけないんだけど。
奥さんには本当に申し訳っす

すし屋の大将とも仲良くさせてもらってさ。
ラム酒からウイスキー談義が始まり、延々とうんちくを聞かされたのもいい思い出。
元上司が飲み比べしよう!とスコッチとバーボン買ってきて、寿司をつまみながらテイスティング会もした。
ご両親の介護、お父さんの最期、職場の運営。本当にいろんな話をしたな~。

最後に会ったのは2024年の12月。去年の暮に電話で年末のあいさつをしたんだよね。
また近々会おうって。ウイスキー飲もうって。話したんだよね。

今年に入って、連絡いれたんだけど。
電話に出ないし。メールの返信ないし。
どうしても連絡取りたければ自宅に電話すればよかったんだけど。

少し頭をよぎったんですよ。
まさかね。
ただその まさか だったら怖くて自宅に電話できなかった。
「ちょっと入院しててさ、電話に出られなかったんだよ」と電話、返信があることを期待していた。

今日、職場に奥さんから電話で訃報を聞いた。

ただただ残念。
ただただ悔やまれる。

もっと話したかったな。
もっとうんちく聞かせてほしかったな。

まだ72歳だぜ。
まだ教えてもらいたい事がたくさんあったのに。

早すぎるよ。

今日はあなたが好きだったハバナクラブのラムハイボールとバランタイン17年の水割りで献杯するよ。

いままで本当にありがとうございました。
向こうで好きなだけ飲んでください。
オレが行くのはまだまだ先だけど、いつかまたやりましょう。
それまでどうか安らかに。

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